親知らずを抜いた方がよい場合、抜かなくても良い場合
2022年2月26日
親知らずは斜めや横向きに生えていることが多い(ピンク色の歯が親知らず)
成人の歯、永久歯の数は28本です。ところがこの28本の中に上下左右の一番奥にある親知らずは含まれません。親知らずを入れると成人の歯は全部で32本あることになります。
親知らずが永久歯の数に入らないのは、ほとんどの人の顎に親知らずが入りきらないのため、親知らずが真っ直ぐには生えないことが多いためです。斜めや真横に生えた親知らずでは、物を噛む機能はほとんど果たせません。つまり「数の内には入らない」のです。
咀嚼に役立たないだけではありません。親知らずは磨きにくくプラークも溜まりやすいので、虫歯や智歯性周囲炎という歯肉炎症を起こしがちです。おまけに隣の歯(第二大臼歯)を巻き込むことも少なくありません。
親知らの名の由来の通り、親知らずは親がもう子供の歯の生え方に気も使わなくなる10代後半から20代にかけて生え始めます。親知らずは英語でwisdom toothと言いますが、先ほど智歯性周囲炎と言ったように直訳して智歯ということもあります。「知恵がつく頃」生えてくる歯なのです。
解剖学的には親知らずが生えてくること自体が成人になった証拠とも言えます。実際、考古学では親知らずのあるなしが人体化石の年齢を推定する有力な手掛かりになります。
ただ、中には親知らずがまったく生えてこない人もいます。あるいは表面に現れず歯肉に深く埋まっていることもあります。このような場合は親知らずが虫歯になったり、歯肉炎を起こすこともまずないので、親知らずを抜歯する必要はありません。
親知らずの抜歯は大掛かりになることも多い
しかし、大部分の人は親知らずがあり、しかも真っ直ぐには生えず、遅かれ早かれ虫歯や歯肉炎を起こす可能性があります。とは言っても奥に生えていて埋まっていたり、時には骨と癒着していて抜歯が大掛かりとなることは稀ではないのが親知らずの厄介なところです。
そのため親知らずは自院では抜歯せず病院に紹介状を書いて抜歯をお願いする歯科医院も少なくありません。マナミ歯科クリニックには口腔外科医が常駐しているので大部分の親知らずの抜歯は当院で行いますが、中には完全麻酔を必要な抜歯が予想される場合もあり、すべての親知らずの抜歯を行うわけではありません。
そんな恐ろしいことを聞かされては、親知らずの抜歯は避けたい、少なくとも一日延ばしに先延ばしにしたいという気持ちになるのも無理はありません。まして、痛みが少々あっても落ち着いて来て痛みがなくなってくると、「できるだけ抜歯は先延ばしにしよう」と思うのはむしろ自然かもしれません。
今は痛くても痛みが治まるなら親知らずの抜歯はしたくないと思ってしまう
しかし、親知らずはほとんどの人がいつかは抜歯します。しかも親知らずの抜歯は骨が柔らかい若いうちの方が有利です。年齢を重ねると親知らずと骨との癒着が進んで抜歯がますます難しくなるようなことも起きてきます。
「親知らずは予防的に早めに抜いてしまった方がよいのか」と聞かれると大半の口腔外科医は「その通り」と答えるでしょう。いつかは抜かなければならないなら「今でしょう」というわけです。
ただ、親知らずの抜歯はまったくのリスクフリーではありません。まれに抜歯の際、神経が傷つき痺れが残るようなことはあります。このようなリスクを小さくするため、親知らずの抜歯の前はCT撮影がたびたび行われます。CTを使うことで神経や血管の様子が予め正確に把握できるので、リスクの大きさやリスクを避ける方法もわかるからです。
CTを使うことで親知らずの抜歯のリスクは小さくできる
また、大病院には行かないまでも親知らずの抜歯が長時間におよぶ場合は鎮静麻酔が効果的です。鎮静麻酔は抜歯での不安やストレスを大幅に軽減できるため、一度に複数の抜歯を行っても負担はずっと小さくなります。
では親知らずを抜歯する必要のない人はいるでしょうか。親知らずが真っすぐ生え、普通の歯と同様に使える人もいます。このような方は予防的な親知らずの抜歯は必要ないでしょう。ただ、斜めに生えている場合よりはプラークは取りやすいとは言っても、奥にある親知らずをしっかり磨く努力は必要です。
親知らずを使うなら歯磨きもよりていねいに
また、抜歯した親知らずを保存して他の歯の抜歯の後に埋め込む治療もあります。何と言っても自分自身の歯ですから生体の拒絶反応はありませんし、インプラントのようにチタンネジを埋め込む必要もありません。ただし、これは親知らずが虫歯もなく、また抜歯した歯と形状が似ていることが条件となります。可能性も含め成功する確率は決して高いとは言えません。
結論として親知らずの大部分は抜歯となり、抜歯するなら躊躇せず早く抜いた方が良いでしょう。予防的に抜歯を行うことで難抜歯が予想される場合でも、仕事のスケジュールの調整などもやりやすくなります。やはり、「抜くのは今でしょう」ということです。