アンテリアガイダンスの重要性
2021年6月5日
歯列がきれいに並び、嚙むことも十分にできる。歯科治療としてはそれで十分に思えるかもしれません。しかし、長期的に口腔内の健康を保つためには、「アンテリアガイダンス」を考える必要があります。
アンテリア(Anterior)は前方、ガイダンス(guidance)は誘導を意味する言葉です。下の顎を前方に動かしてみてください。下の前歯が上の前歯の裏側をこすりながら動いていくことがわかると思います。今度は横の方に動かしてください。犬歯(前から三番目の上に生えている歯)がわずかにしたの歯に触れて下の歯が移動します。
奥歯同士が触れている歯並び
前方や側方に下顎を動かした時、上下の臼歯の部分にわずかに隙間があることが本来必要です。この隙間がなく、奥歯と奥歯が触れ合っていると臼歯部に負担がかかり、臼歯や臼歯部の歯周組織が傷む原因となります。
具体的には、下顎を前方へと動かす際、上顎前歯の舌面(裏側)と下顎前歯の切端(先端)が接触することを前歯が誘導し、側方に動かす時は、犬歯が下の歯に触れて誘導することで臼歯部の隙間が得られることをアンテリアガイダンスが適切に確保されているということです。
臼歯というのは太くて大きく、丈夫な歯ではあり、垂直的な力に強いのですが、横からの力には弱い傾向にあります。適正なアンテリアガイダンスが付与されていると、顎を側方に動かした際に臼歯部は浮くことになるため、過剰な側方圧がかかるのを回避できるのです。
歯並びが美しいだけでは歯が正しく機能していると言えない
例えば、受け口である反対咬合では、上下顎の位置関係からもアンテリアガイダンスが正常に機能しません。開咬(臼歯が接触し前歯に隙間ができる歯並び)では、前歯部が接触していないため、下顎を動かすと臼歯のみに負担がかかることになります。
アンテリアガイダンスは歯の治療では大切な考え方ですが、歯並び全体を考えなければならない、全顎的な治療では特に重要です。アンテリアガイダンスに十分配慮しない治療は、長期的には臼歯部の抜歯まで必要となる状況もあります。
アンテリアガイダンスは正常な咀嚼能力を発揮する上でなくてはならない要素です。歯科治療では、矯正を含めアンテリアガイダンスを十分に意識した治療計画が求められます。