口腔内スキャナー
2019年8月16日
口腔内スキャナー(右)と撮影画像(iTero)
口腔内スキャナーというのは先端にカメラのついた棒状の機器です。普通のカメラで口の外側から撮影を行う口腔内撮影ではなく、形が棒状のため口の中に入れて撮影ができます。よく似たものに口腔内カメラがありますが、口腔内カメラが撮影した画像をディスプレイで表示するだけなのに対し、口腔内スキャナーは接続されているコンピューターが撮影した画像データーを組み立てて歯並びを再現することができます。
口腔内スキャナーで撮影した画像はコンピュータで歯並びとして組み立てられる
被せ物などの技工物はまず石膏で技工物を装着する歯の型をつくり、その型に合わせて作られます。口腔内スキャナーは、コンピューターで技工物を作成するデーターを作ることでコンピューターで技工物を設計し作成するCADCAM(Computer Aied Design Computer Aided Manufacturing)を実現する出発点になります。
口腔内スキャナーでは撮影だけでなく、画像を合成して表示・操作する機能が重要です。デンスプライシロナ社のセレックシステムは口腔内スキャナーと技工物をブロックから削り出すCADCAMのプロセスを一貫して行うことができる製品ですが、セレックのソフトウェアは生物統計学的手法を用いて、スキャンした歯牙に基づいて、個別に初回修復提案を行います。
セレックシステムは口腔内スキャナーのデータから技工物の作成まで一貫して行うことができる
口腔内スキャナーで歯の形をデータ化することで石膏模型を作らずに技工物を作ることもできます。石膏模型は、シリコン樹脂を口の中に入れて型取りをした印象を元にしています。口腔内スキャナーを使って作成されたデギタルデーターは石膏模型と違って保管の場所も取らず必要なら繰り返し使用することもできます。
石膏模型の制作にはまずシリコンの印象剤で歯の型取りを行う必要がある
しかし、口腔内スキャナーで石膏模型を一掃してしまうことは必ずしも簡単ではありません。口腔内スキャナーはカメラですから撮影できない部分はデータの採取ができません。口の中は唾液などで撮影データの質も影響を受けます。
実はCADによりコンピューターが作る技工物も、熟練した技工士が手作業で行うレベルにはなかなか達しません。歯の技工物は1mmの何分の一という高い精度が要求されますし、歯茎という柔らかい組織にぴったりさせることも必要です。この分野ではコンピューターは人間の技工士にはまだかなわないというのが現状です。
しかし、被せ物のような精密さを必要としないマウスピースなどは口腔内スキャナーで作成が可能です。マウスピース矯正は、マウスピースの形を矯正治療の目的に少しづつ合わせて変えていきます。従来の方法は、そのたびごとに印象で型取りをするという作業が必要だったのですが、インビザラインで使用する口腔内スキャナーのiTeroは画像データから矯正治療に合わせたマウスピースをいくつも作り出すことができます。
セレックもiTeroなど、口腔内スキャナーで採取されたデジタルデータを集積してより制度の高いスキャン映像の作成と、次の工程となる技工物の作成との連携を改良し続けています。将来的には歯科治療でほぼ全面的に石膏模型の不要となる時代が来ると予想されます。
口腔内スキャナーはインプラントの設計にも利用されるようになってきました。さらに、口腔内スキャナーのデジタルデータは同様にデジタルデーターを作り出すCTと組み合わせることで歯科治療の治療計画からインプラントや技工物の作成までコンピューターをベースに行うことも可能です。ただし、これらは異なるメーカーの製品の連携が壁になることが多いのも事実です。
とは言え、歯科治療は口腔内スキャナーによるデジタルデーターの活用でその姿を大きく変えつつあります。将来的には歯科治療や新診療所の風景が一変するとことも予想されます。