歯のヒビは元に戻らないでしょうか
2019年6月14日
歯に入ったヒビは元には戻らない
歯は人間の体の中で一番硬い器官です。特に歯の表面にあるエナメル質は98%以上が石灰を主成分とした無機質で結晶状の構造を持っています。エナメル質に覆われた象牙質も結晶ではありませんが70%の無機質を含み、人間の体ではエナメル質に次いで硬い物質です。
そんな、歯もヒビが入ることがあります。硬いものにぶつけた場合もありますが、歯ぎしり、食いしばりなどでいつのまにかヒビが入ってしまうのです。歯にヒビが入ると象牙質に収められている歯髄の中の神経が直接冷たいものなどの刺激で痛む知覚過敏という症状を引き起こすこともあります。
歯ぎしりで無意識に強い力が歯にかかるとヒビが入ることがある
歯ぎしりなどによる知覚過敏は、歯髄が直接刺激されないように、歯髄と歯の表面を結ぶ象牙細管を薬剤でブロックすることで症状を緩和することは可能です。しかし、歯のヒビが自然に回復することはありません。
歯にヒビが入る理由は歯ぎしりだけではありません。虫歯が進行して歯質を削ることで歯に負担がかかり歯根(歯の根元)が破折することがあります。こうなると歯を残すことは難しくなり抜歯する必要が起きてきます。
しかし、どうして歯のヒビや破折は自然に治らないのでしょうか。そもそも、抜歯をした後、歯が再び生えてくるようなことはないのでしょうか。体の器官や臓器で再生するものは一部に限られますが、怪我をした場合は体の持っている回復力で皮膚や筋肉は再生されます。
歯と同様に石灰分を多く含む骨は骨折しても折れた部分はつながります。これは骨の細胞は活発な代謝を行っていて、ヒビが入ったり、折れた箇所を細胞分裂で修復することができるからです。
歯も体の一部なので細胞分裂で作られます。歯の元になるのは歯胚と呼ばれるものです。歯胚は歯と歯根膜など歯の周りの組織、歯周組織を作ります。歯胚から作られた歯は次第に無機質化して硬くなっていき、細胞分裂することもなくなります。
歯が骨と違って細胞分裂をしないのは咀嚼のために非常に硬い組織を作る代償と言ってよいでしょう。哺乳類の歯は人間だけでなく生え変わりもしませんし、細胞分裂で自己修復をするようなこともありません。
ただ哺乳類の中で齧歯類と呼ばれるウサギやネズミの歯は生涯伸び続けます。しかし、それは次々に新しい歯が形成されてはいますが、硬組織としての歯が細胞分裂をしているわけではありませんし、歯が生えかわることはありません。
ウサギの歯は生涯伸び続ける
ヒビが入っても治らない、場合により抜歯するしかない歯ですが、将来的には再生の夢が開けていました。歯を作り出す歯胚細胞の機能を作り出す歯胚再生の研究が進んでいます。歯胚再生から歯(歯牙)そのものの再生を目指しているのです。
また、歯胚再生だけではなく、歯の中の神経や血管がある歯髄細胞にも注目が集まっています。歯髄細胞は多くの細胞になることができる幹細胞として高度な機能を持っているのです。
歯髄細胞が幹細胞であることを利用するために歯髄バンクを作り、皮膚の再生、内臓器官の修復、歯周病により失われた歯肉の再生など様々な用途に使う研究を行うのが歯髄バンクの目的です。
細胞分裂をせず、ヒビや破折を修復することもできない歯ですが、その元になる歯胚や歯髄細胞に再生医療の可能性が秘められているというのはとても興味深いことではないでしょうか。