どうしても抜歯したくないのですが
2018年5月8日
できれば抜歯は避けたい
抜歯はどうしても避けたいと思う方はますます増えています。その理由の一つに厚生労働省と歯科医師会が推進する8020運動があります。8020運動は「80歳で20本以上残す」という意味なのですが、成人の歯は親知らずを除くと28本なので、これは抜歯は8本までということになります。
8020運動は単なる標語ではありません。歯は20本あれば咀嚼はほぼ問題なく行えるとされていんますし、統計的にも歯が20本以上ある高齢者は認知症になる割合が大幅に小さいとされています。
歯を残すことは高齢者の健康に大切
それでは、なぜ歯を失うことになるのでしょうか。日本人が歯を失う一番の原因は歯周病です。歯周病は歯周病菌が引き起こす歯茎の疾病ですが、虫歯のように痛みをあまり感じないままゆっくりと進行し、歯を支える土台の骨、歯槽骨を溶かします。つまり歯周病になると地震で液状化した建物が倒れるように歯を支えることができなくなってしまい、最後は歯を失うことになるのです。
歯周病予防には定期的な歯石除去が効果的
歯周病予防の方法はきちんと歯磨き指導を受けて正しく歯を磨くことと、定期的な歯石除去が基本です。またいったん歯周病になり治療した後も継続的な歯周病治療を行い続けることで歯周病の悪化を防ぐことができます(歯周病の再発を防止するSPT)。歯周病対策は8020の実現に欠かせません。
歯周病の次に歯を失う原因となるのは虫歯です。虫歯はある程度進行すると痛みが出るので、歯周病のように気が付かないうちに進行することは少ないのですが、虫歯の治療で歯を削って詰め物をしたり、被せ物をした歯は虫歯の再発率が高まります。虫歯はできるだけ削る必要がない段階で治療するのが抜歯を防ぐために大切です(歯医者さん歯を削らないで!)
何度も虫歯を再発させ、歯をけずっていくと歯がほとんど残らなくなってしまいます。被せ物をするためにはフェルールと呼ばれる歯茎から出ている歯質の部分が一定程度必要なのですがフェルールが少ないと被せ物ができず抜歯をすることになります。
虫歯治療を繰り返すと歯質が失われて抜歯にいたる
そのような場合でも、抜歯を避ける方法はあります。一つは歯を引き出してフェルールを確保するエクストルージョンという方法です。もう一つは歯茎を切開することでフェルールを得るクラウンレングスニングというやり方です。一定の条件はありますが、フェルールが足りないから抜歯という状況を解決することが可能です。
しかし、虫歯が進行して神経を除去する(正確には神経や血管の入った歯髄と呼ばれる部分を取る)と別の問題が出てきます。一番のリスクは神経を取る際に唾液が患部に混入することです。これは根管治療、根の治療の基本なのですが、ラバーダムというゴムの被膜で歯を覆って治療することで、そのリスクは大幅に下げられます。
ラバーダムで覆うことなく根の治療を行う、あるいはラバーダムで覆っていても歯の根の部分の炎症、根尖性歯周炎が起きることがあります。歯の中にある神経を収めている根管は大変複雑な形状をしており、再発を防ぐように
根管治療を行うのは容易ではありません。
根管治療の成功率を高めるのは根管治療専門の歯科医師によるマイクロスコープという歯科用顕微鏡を駆使した治療です。また、マイクロスコープだけでなくMTAセメントという高価ですが非常に薬効性の高い治療剤の登場も抜歯の確率を下げるのに貢献しています。
マイクロスコープは根管治療を変えた
このような努力を重ねても抜歯の可能性は残ります。ケガで歯を失うこともあります。ただ矯正治療で行う抜歯、便宜抜歯は結果的には咀嚼力を向上させるので必ずしも悪いこととは言えません(矯正で抜歯なんて)。しかし、便宜抜歯も小児の時に矯正で顎を広げることで防ぐこと可能です(必ずではありませんが)。
抜歯にいたる原因は様々です。そして抜歯を防ぐにはひとつひとつの原因を防ぐための努力を積み上げていくことです。抜歯という一つの最終的な結論にいたる前に、患者様とご一緒に抜歯を防ぐ方策を考えていきたいと思います。
説明に納得してから決めましょう