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良い抜歯と悪い抜歯

2019年4月26日

歯はできるだけ抜きたくない



歯をなるべく抜きたくないのは誰でも同じです。特に最近は80歳まで20本の歯を残そうという8020運動の広がりもあって、抜歯への抵抗は昔よりずっと強くなりました。8020運動の始まった当初7%だった8020達成者は今では半数を超えています。

これは口腔ケアの意識の高まりと、歯科医、歯科衛生士の努力の結果と言ってよいでしょう。日本人が歯を失う一番の原因は、全体の4割を占める歯周病です。次は3割の虫歯で、残りは事故による破折や親知らずの抜歯などによるものです。

抜歯を防ぐのに口腔内ケアが大切なのは、歯周病や虫歯の予防になるからです。特に歯周病の予防には毎日の歯磨きと定期的に歯石を除去することが大切です。では歯科治療はどうでしょう。

抜歯リスクを下げるには口腔内ケアが基本



世の中には「歯医者は面倒な治療をせず、金儲けばかり考えている」と主張する「歯科の駆け込み寺」を売り物にした本さえあります。しかし、8020運動達成者が増加していることを見ても、それは事実に反しています。歯を抜かずに治療を進めることはほとんどの歯医者がもっとも重視していることです。

ではどういう時に抜歯が必要になるのでしょうか。親知らずはまっすぐに生えてちゃんと噛むことに役立つ場合もありますが、横向きに生えているなど咀嚼には貢献しないのに、奥にあるため手入れが難しく、抜くことが勧められるケースが多くなります。

親知らずは元々永久歯の28本の中に数えられておらず抜歯はむしろ普通です。親知らず以外の歯では、歯周病で動揺が強い、虫歯で再治療を繰り返すうちに歯質がわずかしく残っていないといった理由があります。

歯周病での歯の動揺は粘り強く治療を続けることで治まってくることもありますが、一定以上の動揺があった場合は抜歯以外に選択肢はなくなります。このような歯は噛む力がないので、抜歯してインプラント、ブリッジ、入れ歯といった人工歯の装着が必要です。

後者の再治療の繰り返しで歯質が少なくなりクラウン(被せ物)を装着することが困難な場合も抜歯と人工歯の装着が必要です。歯を失った時、人工歯の装着が必要なのは、歯を抜いたまま放置すると、噛む力が弱くなるだけでなく、両側の歯が倒れこんで来たり、反対側の歯が挺出といって抜けた部分に伸びて来るからです。

すべての抜歯を悪いものと決めつけて避けるのは、咀嚼力のためにも他の歯への影響を考えても好ましくありません。良い抜歯という言葉不適当なら必要な抜歯と言い換えてもよいでしょう。

「戦略的」に行う抜歯もおある



必要な抜歯の他に戦略的抜歯と呼ばれるものもあります。これは全顎的治療の一部です。全顎的治療とは、一つ一つの歯ではなく口の中すべての歯の見直しを行い、インプラント、入れ歯、被せ物、そして部分的には矯正治療も含めて、咀嚼力、審美性、口腔内ケアを総合的に高めようとするものです。

全顎的治療は歯科治療でも最も高度なものの一つです。全顎的な観点からではなく、残すことができたかもしれない歯を抜歯するのは「悪い抜歯」と言えるかもしれません。

しかし、冒頭で書いたように金儲けのために「悪い抜歯」をするような歯医者は滅多にいません。少なくともほとんどの抜歯は必要があって行う「良い抜歯」なのです。

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